ぬげた靴    石垣りん


 私の外側は空気でみたされていた
 私の内側も同じような
 或はもっと軽いものでみたされていた。

 私は自分の顔を描いた
 まゆをひいて口紅をぬって
 人前にふわり、 と立たせた。

 靴が、おもりのように私を地につけて
 浮き上がるのを
 ようやくとどめていた。

 笑ったり
 おこったり
 話したり
 働いて月給をとったりした。
 
 このゴム風船造りの人間を
 ある日誰かが抱きかかえたために
 靴が、 ぬげてしまった。

 風船は浮き上がった、
 家から
 舗道から
 人から

 (どこで人と別れたろう?)

 ゆけばゆくほど一人になる
 空のまっただ中を
 風船は昇ってゆく。